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#243 December26, 2011 Tag: 2011works




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「ガリ版少年タイポ」 大阪編





#242 December9, 2011 Tag:少年タイポ


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昨年に大阪のPANTALOONにて行われたschtucco(シュトゥッコ)の展覧会「お引越とお葬式」(レポートはこちら)の会期中に開催したワークショップ、「ガリ版少年タイポ」(開催日は2010年11月28日)のレポートをお送りします。

前半は、精神科医であり音楽家でもある星野概念くんと、後半はグラフィックデザイナーであり幼稚園の先生であり、MOZINEの相方でもある宮添浩司くんに加わってもらって進めたいと思います。

どうぞよろしくお願いします。



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大原 まずは「文字くじ」について簡単に説明しますね。



概念 お願いします。



大原 まずはくじびきの要領で紙片をふたつ引き抜いてもらうんです。例えばこんな感じで。



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概念 この紙片に書かれている言葉は、もとは小説のものなんですか?



大原 小説、エッセイ、論文、日記、インタビュー、新聞や雑誌の記事など様々です。それらを細かく切り抜いてシャッフルしています。



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概念 なるほど。裏にも印刷されていますね。



大原 そうです。表裏どちらの言葉を選んでも良いですし、入れ替えも自由です。その引き抜いた言葉に自分の言葉を足して、新たにひとつの世界を作り上げてもらうのが大まかなルールです。例えば先ほどの言葉を使って、ある人はこう組み立てました。



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概念 面白いですね! 言葉を足すのは真ん中だけじゃなくてもいいんですか?



大原 そのあたりの縛りも自由です。前後に足しても良いし、引き抜いた紙片をさらに細かく切っちゃってもいいです。



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概念 前に足す人ってあんまりいないんですか? 先に状況設定作るというか、言葉をより自分側に引き寄せる人。



大原 案外少ないですね。だから「文字くじ」は、創作というよりは編集の要素が強い行為なんじゃないかと思っています。

こんな感じで、小説の書き出しのようなもの、広告のコピーのようなもの、会話のようなもの、詩や短歌のようなもの…と、数分前には考えてもいなかったような世界が次々に現れるんです。



概念 これ心理テストにも近いですね。性格傾向が出やすいというか。参加者の幅をもっと広くしていったら、より創作に寄ったり、ルールを破ったり無視したり、そういう人がもっと出てくるはずです。



大原 確かに年齢や職種の幅などはまだ狭いと思います。幼児対象の「キンダー文字くじ」や、高齢者対象の「シルバー文字くじ」などはものすごくやってみたいです。



IMG_5299d▲4歳の女の子による「文字くじ」。完成度高すぎ。





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大原 これがベーシックな「文字くじ」で、最初はCLASKAでやっていたD♥Yというイベントで、屋台として出店していたんです。ワークショップというよりは、お祭りの屋台にあるような宝つりとか型抜きとか、ああいう雰囲気の「言葉と文字のテキ屋」(レポートはこちら)です。



概念 屋台というフォーマットで行うのは面白いですね。屋台自体が持つ稼働性が高いし、にぎわいがあるし、お客さんとの距離や境界がぐっと近くなる。



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大原 その「文字くじ」をベースとして、次の試みとして始めたのが「ガリ版少年タイポ」シリーズです。

「文字くじ」では、普段の書き文字で言葉を書き足してもらっていたのですが、ここで出来上がった文章をさらに普段の字とは違う方法で「清書」したら、それこそ発祥の不明な世界が立ち上がるんじゃないかと思って。



概念 言葉に続いて文字の記述も不自由にしてみるというか、自分の「くせ」から離れてみるということでしょうか。



大原 例えば利き腕と逆で書いてみる、目をつぶって書いてみる、天地逆さで書いてみる、定規で書いてみる…などの方法を使って清書していきます。

ひとつ聞いてみたいのは、これらは普段の「くせ」からは距離が取れるけど、制御しようとする「自意識」は存在していますよね。



概念 していますね。



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▲「ガリ版少年タイポ」より。天地逆さで書き、ガリ版原紙を作成している。





大原 そもそも、自分に染み付いている「くせ」の発祥ってどこなんでしょうか。



概念 行動においては、なにをするとしても「イメージの母体」というものがあります。

例えばここにあるガラスのコップを掴むという行為ひとつとっても、まず目視して距離を掴み、神経回路から電気信号を筋肉に伝えて身体をコントロールしながら掴みに行く。掴む際は、僕は過去にガラスのコップをもった経験があるから、どれくらいの力を入れて掴めば割れないのか、または落とさずに口まで運べるかなどがだいたいイメージできます。これが初めて見るような物質のものだったら、こんなに簡単には行動できない。



大原 記憶している身体経験をなぞっているんですね。



概念 そうです。この「イメージできるかできないか」は大きく違うんです。例えば僕は「星野」という文字は小さな頃から何度も書いてきているので、頭の中に「星野」という文字の母体が勝手に定着していて、そのイメージの母体をなぞっているんです。なぞることで神経の回路が何度も繋がっているので自然に書ける。

これを利き腕と逆で書く場合は、思うように手が動かないから違和感があるけど、イメージの母体をなぞる点においては同じなんです。



大原 「イメージの母体」の話すごく面白いですね。



概念 だから例えば大原さんが書くような文字を何度も何度も真似して練習すれば、その部分の神経回路の繋がりが強固になって、そのうちスっと書けてしまう。それは利き腕と逆の場合も同じです。楽器や伝統芸能やスポーツにおける「型」もこのあたりの話に近いです。



b▲左は天地逆さで書いた例。右は白紙にカーボン紙を当てて、自分が書いている文字を見えない状態にし、さらに定規で文字を書いた例。このカーボン紙を利用した方法は、イラストレーターの二艘木洋行さんがイラストの現場で実践しているもの。二つとも書字方法は異なるが、レイアウトも含め「イメージの母体」からの発生を感じる。『このヤロウ ばかヤロウ どういう了見だ』(武蔵野美術大学で行われた「文字くじ」より)。





大原 でも文字の「イメージの母体」でいうと、一番最初は小学校で使う漢字練習帳の書体などは、ある程度統一されたものを共有して練習しているはずですよね。それがどのあたりからそれぞれの「くせ字」に派生していって、自分の慣れた「母体」に落ち着いていくのでしょうか。



概念 それはいろいろな要素が絡んでいると思います。例えば練習帳などのガイドラインを外した状態で、白紙に線を一本引くのでも個体差がすごく出ますよね。線というものを「捉える感覚」によって差が出てくるんです。

「線は点の繋がり」と言いますが、一本の線をどれくらい細分化して捉えられるかによって、引く線の緻密さに差が出ます。

同じように、音楽で言うと音程を半音や、さらに細かい1/4音などで捉えられると歌唱表現も緻密になります。

こういうのはもう、脳の個性による問題で、その個性が「くせ」に繋がっているような部分も大いにあるし、もしかしたら「くせ」の発祥の一端かもしれません。もっと広げると、自閉症などの発達障害にも関連してくるわけなんで、果てしない問題です。

あとは趣向の問題として、例えば小学校の時に仲の良かった友達の字がかっこよくてそれを真似するうちに変わってくるとか、お父さんお母さんや先生が書いている文字に似てくるとか。マンガの文字とかね。



大原 そのあたりはよく分かります。年代によっても文字のモードがあったりするし、筆記具の変遷でも変わってきていますよね。



概念 そうやって多様に派生しながら、その人固有の母体に落ち着いていくんです。それこそ筆跡鑑定のようなものが存在するくらいに固有なものです。



大原 イメージの母体は、環境因によっての変化もありますか? どういう机で書いているかとか、椅子の高さとか、広さや光量などの空間環境とか、あとは地方性とか。



概念 すごくあると思います。あとは動機の問題も。リラックスした環境下や、好きな人に見せたい気持ちがあったりとか、認められたい気持ちの前提があって書くものと、すごくストレスフルな環境下で、嫌いな学校の先生などから強制的に「文字くじ」のようなものをやらされた場合とでは、結果は違ってくると思います。



大原 なるほどなあ。この「イメージの母体」の話はいろいろな側面から今後ももっと掘り下げていきたいです。



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大原 さて、それでは大阪で開催した「ガリ版少年タイポ」を振り返って行きたいと思います。ここから宮添浩司くんにも加わってもらいます。



宮添 よろしくお願いします! 僕、大阪の「ガリ版少年タイポ」行ってないんですが。

…というか、ガリ版もやったことありません。



大原 大丈夫。その立ち位置で客観的な意見をください(笑)。



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宮添 PANTALOON良さそうな場所ですね。どんな人たちが集まったんですか?



大原 大阪だけじゃなくて、京都、奈良、神戸などからも集まってくれたんだけど、東京から来てくれた人までいてびっくりした。職種はばらばらだったけど、比較的デザイン関係の仕事をしている人や美大生などが多かったのかな。



宮添 まずは「文字くじ」ですね。



大原 その前に座ってもらう席もくじ引きで決めたんだった。偶然座った席で偶然手に入れた言葉をもとにスタートする。前編で概念くんとの話にも出たけど、隣り合わせる人が変わったり、環境が変わると少なからずプロセスに影響してくるから。特に後半の印刷や製本の作業は協力し合ったりとグループワークの要素も入ってくるので、そこの巡り合わせは大事だったりするし。



宮添 知らない人同士でいきなりの共同作業ってどんな感じになるんですか?



大原 前半はやっぱり緊張感もあるし集中しているので静かなんだけど、一度「文字くじ」が完成した時点で、みんなで回し合って鑑賞したあたりから会話も増えて、さらに印刷で盛り上がってきて、終る頃にはものすごく打ち解けた雰囲気になってた。

この「ガリ版少年タイポ」は東京のパルコファクトリーと庭園美術館でも開催したんだけど、PANTALOONの喰らい付き方はものすごかった。これは関西特有の傾向なのかもしれないけど。



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宮添 東京とはやっぱり違う雰囲気なんですね。



大原 この日は結構時間もオーバーしてしまったんだけど、終わってもなかなか帰らない。少ない機会を大盛りで付き合ってくれるというか、余韻の中でその場でいろいろな意見を投げてくれるから、フィードバック量がものすごく大きかった。

…というところで具体的に見ていきたいのですが。



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概念 これは原紙に清書しているところですか?



大原 まずベーシックな「文字くじ」で文章をつくってもらって、次にレイアウト用紙に上下逆さの状態で文字を書きながら、レイアウトしてもらいます。文字の意匠や配置の仕方は個人の自由で、ここでは方向づけるようなアドバイスはあえてしてないです。

次にレイアウト用紙をもとに、ガリ版原紙を作成します。ガリ版はロウ紙と呼ばれる原紙を削ることによって版をつくる謄写版印刷の一種で、この時はボールペンでガリガリ削っています。

原紙はデリケートなので、削りすぎると破れてしまったり、逆に削りが浅いと印刷が薄くなってしまったりとコツがいるんです。ここでもやや手くせからの距離が取れますが、ある程度の慣れで解決できてしまいます。



宮添 この大阪の「ガリ版少年タイポ」は、全部完成版見たんですが、よくこんなに文字のフォルム出せるなあって思いました。



大原 それもこの回特有のものだったなあ。



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宮添 僕の印象だと「文字くじ」は言葉の面白さに比重を置いたものだと思ってるんです。その言葉の面白さと、いわゆるデザインされた書き文字のバランスというのが難しいところだなと思いました。視覚に訴える要素が増えるぶん、言葉自体が持つインパクトが薄れるケースも起こってくるんじゃないかと。



大原 そもそも「文字くじ」は言葉や文字をデザインすることを目的にしていないというか、むしろ逆の、いかにデザインしないかとか、離れられるかとか、デザインというものを疑ってみる試みだったりするので、確かに書字の方法論に関してはまだまだ補正の余地がある。天地逆で書く程度では、脳はすぐに補正できるし、ガリ版にするというのも多少筆触が普段より不器用になる程度だから。



概念 でも、あたりまえの前提でやりすぎている「文字を書く」という行為に変化を与えるというか、仕組みを作ることですごく意識的になるし、気付きがあると思います。



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宮添 話を聞いていて、「偶然の仕組み」のようなものを作ろうとしているのかなって思いました。「偶然」と「仕組み」って、相反するような言葉ですけど。



大原 確かにここで扱われる「偶然」については、もう少ししっかり言語化したい。自分では意図していないものや、コントロールしきれないものは存在しているけど、それを「偶然」として扱うのはどうなんだとか、仕組んでいる時点で偶然じゃないだろうとか。



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宮添 そうですね。この「ガリ版少年タイポ」では、天地逆さから書くとかガリ版で版を起こすといった、やや制御しにくい「仕組み」を挟んでいったにも関わらず、それを軽々飛び越えて行くようなものがたくさんあったので驚いたんです。



大原 「この程度の『仕組み』だったら軽々越えられるぜ」という返答だよね(笑)。

確かに何も知らない人が表面的に出てきたものだけ見たら、「天地逆さから書く」みたいな仕組みは見えにくいんだけど、でもそれを書いた人たちの中では、新しい神経回路の繋がりができていたりする。

そういう身体の中での変化や気付きのプロセスに力点を置いているので、文字をデザインすること自体にはあまり重きを置いていないんです。



概念 でも、完成形すごく面白いですよ。



大原 そうなんです(笑)。

ちょっとこの日の実例を見てみましょう。



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▲「塩水入れっぱなしのレタスを拡大 舟が流れに乗って漂流」



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▲「すべての 勤勉なローマ人官吏の 記憶を元にした 水色の箱のDVDセットが 発売された。」



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▲「歩み寄ってくる金メ 住みついてくる金バ お姐ちゃん『やめまへんで」



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▲「コウモリとイノシシとカモメ 飛び交う 野次に 江口は 答えなかった。」(←違うかも…)



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▲「ビーチチェアのパイプの中からピー音」





概念 確かに天地逆で書いたと思えない(笑)。



大原 やはり同じ時間を共有して、それぞれの思考が蓄積したものだから、家に帰って「他の人はどう取り組んだんだろう」って想像したいですよね。ということで、ガリ版で全員分刷って冊子にまとめて持って帰ってもらいました。

最初にも言いましたが、この大阪では帰ってからじゃなくて、その場でそれぞれが意見交換をしていたのがとても印象的でした。



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宮添 「ガリ版少年タイポ」はこの後、庭園美術館でもやっていましたね。



大原 そこではまた別の「仕組み」を使ったので、またあらためてレポートします。

二人には、これからもなにかと登場していただこうと思っているので、どうぞよろしくお願いします。



概念 普段の仕事がデザインとは領域が全然違うんですが…。



大原 だからこそです。ぜひお願いします。



宮添 僕からもお願いします(笑)。



概念 分かりました(笑)。こちらこそお願いします。今後のレポートも楽しみにしています。






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「お引越とお葬式:life and death of schtucco」
“moving / funeral: life and death of schtucco”

#241
December3, 2011
Tag:journal


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ちょうど一年前くらいのこと。
秋山伸さん率いるschtucco(シュトゥッコ)が、大阪の中津にある長屋を改築したギャラリー・PANTALOONで、「お引越とお葬式」という名の展覧会を行った。この展覧会は、schtuccoの組織解消とともに、秋山さん一家が故郷である新潟へ拠点を移すことをきっかけとして始まっている。奥さまは、schtuccoやチクチク・ラボラトリーのメンバーでもある堤あやこさん。そしてなんとこの展覧会には、このとき生まれてきたばかりのお子さん・ユニくんも参加している(当時生後二ヶ月…!)。

会期中(2010年11月20日〜12月26日)ずっと、PANTALOONのギャラリースペースに三人で住み込み、デザイン事務所を開業。事務所/住居/展示室という空間のレイヤーや、生活/仕事という輪郭が解け合いながら、これまで制作してき本やポスター、アウトテイクやラフ、会期中に制作されたもの、生活用品、食品、新聞の切り抜きやスーパーの袋まで、日々更新されていくさまざまな事物が展示されていく。

並行して、秋山さんによるタイポグラフィーのスクール(全5回)やワークショップトークイベントなども行われ、会場にはその様子もアップデートされていた。秋山さんとご一緒させていただいた、韓国の坡州出版都市(Paju Bookcity)のデザイン会議(レポートはこちら)から帰国後すぐに、このワークショップとトークゲストのご依頼を受けた。

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11月27日。お昼過ぎに大阪・中津に到着。やや迷いながらなんとかPANTALOONにたどり着く。
秋山さんご一家と、PANTALOONの椎屋さん、中野さんとご挨拶をすませ、PANTALOONについていろいろお聞きする。



PANTALOONについて

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大原 あの商店街通ってきたんですが、この道で合ってるのか…?とやや不安になりました。

PANTALOON 大阪の人でもあんな商店街来たことないって言いますね。

秋山 商店街なのにシャッターおろして路面で野菜売っているという(笑)。

PANTALOON あの商店街で急に空気変わるし、平日も休日も雰囲気全然変わらない。ランチに行くOLとかはここから先には絶対来ない(笑)。

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大原 迷い込む感ありますよね。トンネルをくぐって横道に入ると長屋が広がっている。

PANTALOON 雨降ったら洗濯物入れといてくれたり、ご近所付き合いとかはすごくあるんですよ。前までは僕もマンション住んでたんで、そういうコミュニティ全然なかったのでかなりびっくりだったんですけど。

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このあと、長屋を自分たちで改築した時の様子などを写真で見せていただく。築80年の空き家を骨組みだけ残して、すべて手を入れている。場所の都合上、車が入って来れないため、商店街の入り口から資材を担いで搬入していたそうだ。

PANTALOON こんな感じで2004年から始まったんです。すべてが手探りで。

大原 スペースのレンタルもしているんですか?

PANTALOON レンタルはなくて、今のところは自分たちが面白いと思う人たちとの企画展を中心としています。並行して空間やグラフィックの仕事もしているので、どうしても不定期になってしまうのですが、しばらくはこの感じでやっていこうと思ってます。最近このほんと近くに「BY PANTALOON」というもうひとつのスペースも立ち上げて、そこでも展示やPANTALOONプロダクトの販売をしているんです。そこには曽田朋子さんという作家さんの工房があったり、奥のスペースには展示をされる方などにお貸しするゲストハウスもあります。

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秋山伸さんとのお話(2010.11.27 トークイベントより)

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大原 今回「お引越とお葬式」というタイトルで展示されていますが、それは秋山さんの事務所であるschtuccoに関しては解散して、新たになにかを始められるということなのでしょうか。

秋山 解散させたあとに新しい団体をつくるということではないです。個に帰るということですね。組織が大きくなることで指導にまわったり、誰かに任せて隠居するという選択肢ではなく、とにかく今後も自分の手で作ったり動かしたいなと思っています。

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大原 生まれたばかりのお子さんとの新生活も含めて公開・展示していくという試みは、この瞬間にしかありえないことですよね。これはもともと構想されていたんですか?

秋山 僕が一人息子なので、いつかは両親のいる田舎に戻らなければと思いつつずっと実行できなかったんですけど、春に子どもができたことを知って決断しました。そうなるとPANTALOONからschtucco展のお話をもらっていながら実現しないまま解散となってしまうことになります。じゃあいっそのこと、解散や引越しや子供を全部まとめて展示にしてしまおうと(笑)。

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大原 秋山さんとは韓国で少しこのお話しましたが、僕はデザイン以前の生活だったり日常的な実践に力点を置いて考えていたりするのですが、この展示を拝見した時に、その境界が解け合っているというか、迫ってくるものがすごく大きくあったんです。

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秋山 デザイン展は見せ方次第では安易にできてしまうと思うんですよ。かっこいい場所に作品をボンとおくようなことや、どの場所に置いても交換可能なものをつくることはできてしまう。そうじゃなくて「輪郭がわからないようなもの」ができないかなと思ったんです。生活と制作プロセスと趣味と近所付き合いのようなものが全部合わさってきたようなところに、なにかを感じ取ってもらえないかなと。

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大原 たとえばそこに貼られているものは、近所のパン屋さんの袋ですよね。

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秋山 あれは堤が並べたものです。我々は並べるのが好きなんです(笑)。

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大原 その場所それぞれの地域性を獲得しながら制作するという意識もあるのでしょうか。

秋山 今回は大阪でやるってことが大きな特徴でもあったので、東京ではできないようなことをやりたいなと思ってました。ここはもう1〜2週間泊まっていますが、本当に中津良いなっと思っていて、冗談で「引越と永住」ってタイトルに変更しようかって話してるくらい(笑)。
ここでの生活がそのまま直接表現されているかというと、長期間住んでいるわけではないので難しいですが、生活の中に取り込みたいという態度は表現したいなと思っています。
「きれいなものを遠くから持ってきて展示しているから見に来てください」ということではなく、「一緒に生活しながら作っていくので、また見に来てください」という状況の中で作るということですね。

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僕は、「お引越とお葬式」にお邪魔して、あの空間で秋山さんたちと過ごした数日で、その後の生活に小さな変化がたくさん起こった。単純にそれまでの気付きの量が圧倒的に少なかったってこともあるかもしれないけど、取るに足らないと見過ごしていた生活の粒子や、ものとものの間の見えに明らかな変化が起こってきたのだ。


Paju Book City 後日談

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大原 Pajuのブックデザイン会議はいかがでしたか?

秋山 緊張しましたね。最後のほう時間足りなくなって駆け足になっちゃったり。

大原 秋山さん、一睡もできずに韓国到着されてましたよね。懇親会で食べた食事の味もあまり覚えていないって言ってました。

秋山 ゆったりした気持ちだったらすごく美味しく食べれてたんだけどね。だからシンポジウム終わってから、ソウル市内で食べたものがものすごく美味しく感じた(笑)。

大原 秋山さんのシンポジウムでのプレゼンテーションのお話を、もう一度聞かせていただけますか。

秋山 僕は「読書経験の撹乱(Destabilizing The Reading Experience)」に関して、物質的レベル(Return to Scraps of Paper)と「視覚的レベル(Optexture)」の2軸から話しました。今ある読書経験を完全に転覆させようということじゃなくて、「安定化することを避ける」ということです。
まずひとつは物理的なレベルとして、本の構造に関しての疑問を呈す--例えばそこを極限的にいくと、紙片の束(scraps of paper)になるんじゃないかということ。
もうひとつは表面的/視覚的な撹乱の試みをしていて、まだ実験段階ものだけど「Optexture」と呼んでいるもので、「optical」と「texture」の造語です。紙は平板で無個性なものだけど、そこに視覚的な効果を加えることで,本来存在しないTextureを出そうという試みです。(edition nortの本を例に、さまざまな事例を解説していただく)

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大原 同時通訳の方が、秋山さんのお話は翻訳がとても難しいから、本番はゆっくり話して下さいって言っていましたね(笑)。

秋山 最後の鄭丙圭さんの総評聞いて、「ああ、なんとか伝わってたようでよかった」って思った(笑)。

大原 秋山さんのセッションは録音していて、帰ってきてからレポート書くためにテープ起こししながら何度も聞き直しました。僕と秋山さんのアプローチも全然違いますけど、シンポジウムでの日本枠はかなり異色だったと思います。

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秋山 大原さんの発表の時に、明らかに会場の雰囲気が変わったと思いますよ。今までのお固いシンポジウムにはなかった雰囲気だと思うし、こういうアプローチのデザイナーが日本にいるんだってことを示せていたと思う。
ただ、大原さんの「文字くじ」の取り組みは会場でとても受けていたのだけど、恐らく深いところでは理解されていなかったような気がしています。「ブック」とも「デザイン」とも取られにくいものですよね。でも僕は、デザイナーの職能っていうのが、今後これからちょっとずれてくるんじゃないか、もしくは新たな職能が出現してくるんじゃないかという根本的な期待や動きを感じたんです。
いわゆるデザイナーがすごいものを作って「どうだ」って提示するデザインではなくて、逆にみんなが作り手として文字にも言葉にもアプローチできるような、下から草が生えてくるような作り方だったり、しくみ作りですよね。これが今後どう発展していくかはこれからの取り組み方だと思うけど。

大原 僕もそう思います。「文字くじ」で起こっている現象に関しては抽象化して理論上のオチをつけすぎたくない部分も多少あって、あれは「できごと」だと思っているんです。「ブック」や「デザイン」としての造形的な定着や説得力も補正の余地しかないんですが、さらに創作ってなんだろうとか、自意識って?偶然性って?自動生成って?個って?…となってくると、次は生態心理学や言語学といったフレームのまたぎが必要になってきます。自分のプロジェクトの中では稀な「できごと」にアプローチできそうなものだと思っているので、続けて取り組んでいきたいです。

秋山 明日はその「文字くじ」のワークショップをしてもらうんですよね。

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大原 はい。「文字くじ」で生成した文章を、ガリ版で刷って1冊にまとめます。同じ内容で一週間前に東京でも開催したんですが、大阪ではどんな違いが出て来るかとても楽しみです。

秋山 楽しみにしています。


※このガリ版「文字くじ」のレポートは次回お送りします。

この展覧会の様子は、当時のschtuccoブログで、より丁寧にレポートされています。
あわせてご覧ください。

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先日の「トーキョー・アート・ブックフェア」で、出店されていた秋山さんご一家とお会いした。ユニくんはもう一歳になろうとしていた。
盛況だったのであまりお話はできなかったので、今度は新潟での活動などをまたゆっくりお聞きしたいです。

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