近しい人が話してくれた、シャシンのハナシ。 時は90年代初頭。 中学生の頃の同級生に、Sくんという男の子がいた。 Sくんはクラスの中でほとんど目立たないような、さえない子だった。成績も良くないし運動もだめ、モテるわけもなく、制服のズボンも入学当初から裾を直していないから七分丈になっちゃてるし、なんだか薄汚れている。そんなことで、軽くからかわれたりしていたけど、それでもいつもニコニコしていた子だったという。 そんなSくんが、修学旅行に行った時のこと。 テンション上がりまくりの中、いつものさえないSくんの小さな変化に、皆は一斉に気付いた。中学生にとっては、コンパクトカメラはおろか「写ルンです」でさえ高級品だったその頃に、Sくんの首から、ピカピカの一眼レフカメラが提げられていたのだ。 普段おとなしいSくんは、ニコニコしながら「撮ってあげるよ」と皆に話しかけてまわったそうだ。 いつもSくんをからかっているヤンキーも、目も合わせてくれないような女の子たちも、あいつ、普段何考えてんだか分からないけど、そういうマニアックな趣味あったのね、そう思うと確かに案外イイ写真撮ってくれそうじゃない?的な空気、プラス旅行テンションも手伝って、「そう…? ならせっかくだし…」と笑顔で応え始め、その輪はどんどん広がっていった。 Sくんは旅行中ずっとシャッターを押し続けた。夢中で、本当に嬉しそうに。ちょっとだけ得意げに。 ファインダーから見えたみんなの笑顔は、どんなだっただろう。 その時間と風景は、Sくんによって瞬間ごとにフィルムに切り取られ、100年後も退色しない印画紙に焼かれて、後にいつでも振り返られる、大切な写真になるはずだった。 …はずだった。。 そのカメラには、フィルムが入っていなかったのだ。 そもそもSくんは、カメラとフィルムがセットになって初めて写真が撮れることを知らなかったのかもしれない。家にあったフィルムの入っていないカメラを、そうとは知らずに勢いで持って来ちゃったのかもしれない。フィルムはちゃんと入っていたけど、巻き取りかなんかで失敗したのかもしれない。今となってはその辺も分からないけど、とにかく写真は1枚も撮れていなかったのだ。 旅行から帰って来て2週間後くらいに、誰からともなく、「あの時の写真、撮れてなかったらしいぜ…」と、ささやかれ始めた。「ていうか、フィルム入れ忘れてたらしいよ…」「やっぱりね」とか「どうりで変だと思ったよ…」という流れになりつつも、誰もSくんに直接つっかかったりはしなかったという。 その時の空気は、なんとなく分かる。 Sくんが、どんな気持ちでカメラを持って行って、どんな眼差しでシャッターを押していたか、どんな光景が広がっていたかを、想像してみる。 それが撮れていなかった時の気持ちも、ちょっとだけ想像してみる。 オチを言ってしまえばただのトホホエピソードでもあるんだけど、仕事抜きで、単純に自分がグっとくる写真てなんだろう?と考えた時に、必ずよぎるのが、Sくんの写真の話なのです。 |
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写真家の植本一子ちゃんと、ライターの南波一海さんによる、仕事場訪問連載「お忙しいところ失礼します。」で、取材していただきました。(こちらから読めます) なんというか、おおよそ取材とは思えないような特別な時間でした。 どうにかお礼したいと思い、いろいろ手を動かした次第だったのですが…。一子ちゃん、南波さん、またお仕事出来るなら、いつでもどこでも飛んで行きます。またあらためて。 iくん、原田さん、どうもありがとうございました。 先週土曜日はNADIFFにて行われた「池田みどり」のトークイベントへ。ゲストはBluemarkの菊地敦己さん。 ちなみに「池田みどり」は写真家の池田晶紀と美術作家の三田村光土里さんのユニットで、今回はその「池田みどり」の初写真集の刊行記念イベント(写真集のADが菊地さん)だったんだけど、これが面白かった! 写真集もすごく良いし、菊地さんの話むちゃくちゃ面白かったです。もっと聞きたかった。。いい汗かいた。部分的にストリーミングで中継されていたようなので、ご興味ある方はぜひ。 そんでもってイケの写真。出会った頃(もう14年前…!?)から、いつも先を走っていましたが、今回あらためて心底びびりましたぜ。「相変わらず」とは思わなかった。ひ…飛躍してる。。感動しました。 写真集、絶対現物でどうぞ。 写真にはなにかがある。写真家という生き方にも、なにかをビシビシ感じる。 一回性に対する意識の高さなのかな もう少し、秘密に迫りたい。 |
#194 /// 2010.2.22 /// tag: diary /// シャシンのハナシ /////////////////////////////////////////