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ある朝思い立って、京都行きの夜行バスを予約。3500円。ゲストハウスも予約。ドミトリー2500円。海外からの旅行者も多い京都では、町家を改築したようなゲストハウスがたくさんあって、ググるとランキングサイトまである。サイトもチープなものからオシャレなものまで、スタイルウォーズ具合が面白い。

Macbookとデジカメを持って、まったく無目的にバスに飛び乗る。自分に言い聞かせるまでもなく、これは出鱈目な行為だ。見知らぬ土地へ突然行って、フィールドワークをする。受注仕事をする。まだ見ぬ誰かと出会う。移動しながらグラフィックデザイン業は営めるのだろうか。これはエクストリームスポーツだ。エクスペリメンタルジャーニーだ。

ということでバス。周り全員夏休み終わりの大学生。隣の青年は、発車後すぐに僕の肩を枕にすやすや寝てしまった。何度かわざと肩をカクンとしてみたが、一向に起きず、ますます甘えてくるので、あきらめて寝た。寝れない。結論、夜行バスつれー。

朝7時頃、京都駅到着。今年の最高気温を更新(39.9度)したばかりの古都であるが、意外にもカラっとしていた。新調したマクロレンズを覗きながら徒歩10時間。様々な時代の看板文字や意匠、落書き、テクスチャ、…つまりは古都の和音とノイズを大量に採集。所々で見仏、参拝、活版印刷所を見学し、紙加工場のおっちゃんと話し込むなどして、夕刻ゲストハウスへ。

オンライン予約したがまったく返信なくて電話も出んわであったが、無事チェキン。しかし男4人部屋(外国人&大学生)激サウナ状態。最高気温更新しながら、いくつかのお仕事をする。WiFiは完璧。

ここで夢想。
もしここにスキャナーとプリンターとモニターがあれば、ある程度の仕事はストレスなくできる。作業スペースは東京より場所が取れる。僕が普段やっているような手作業系はいくらでもできる。さらに庭や土間や別室を利用して木工場や暗室やシルク工房、窯があったら…。

ちなみに宿泊先のゲストハウスの前にはアトリエがあった。これは立派なデザインレジデンスだ。東京から突然地方に引っ越して起業するのはリスクが高い。だけど東京の家賃帯やスペースでは実現出来ない表現や地域性は確実にある。両方はなかなか手に入れられない。そうなると、この夢想のバックパックデザイナーレジデンスは、利用しがいのあるものではないだろうか。ご飯なし。アメニティもなし。でもふらりと来て小作業ができる。しかも1泊2000円程度で。編集者やフィールドワーク主体の研究者、デザイナー、音楽家、建築家などは向いているんじゃないだろうか。海外から来るそのあたりの職種の方々も。日本のお宿は高いから、長期滞在でフィールドワークしたい場合にはよろしいのでは。もし海外にそんなゲストハウスあるのなら行ってみたい。日本の様々な地方にもそういう場所があると面白いのだけど。。

ただし、この夢想はビジネスモデルではありません。儲かりませんし。そして「作業」というのは、みんなでわいわいやりたい人もいれば、濃密な孤独作業をやりたい人もいるので、そのあたりは個々に理想的な環境を追求していくべきだとも思う。

個人的に、特定の場所や組織を持つのではなく、様々な地域に拠点を持って、移動しながら仕事をするスタイルも可能なんじゃないかと思った次第。そういう場所があまりないのなら、自分でつくってみるのもいいなとも。

自分の場合、旅行先での主な目的は、休息というよりは、結局はフィールドワークだ。その地域でしか吸収できない刺激や学びは、制作の種もしくは芽生えと言っていい。さらに現地で採れた<食材>を、新鮮なまま調理出来る<調理場>があるのなら尚良いなと思う。軸があってこその運動ということで、拠点は大切だと思う。ただ、その拠点は1カ所ではなく、何カ所かに点在させると、さらに面白く運動するんじゃないだろうか。

そんなことを考えていたら、collect.apply design companyのJames Gibsonと連絡が取れ、急遽お会い出来ることに。彼とは以前郵送で『MOZINE』と彼の作っている本をトレードしたことがあるだけなのだが、幸いにも自宅に招いてくれるという。彼は京都のオフィスと、比叡山中腹の自宅兼事務所を行き来しながら、興味深い活動をしている。地方でのデザイン業運営(さらに外国人)あたりについていろいろインタビューしてみたいと思った。

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2日目。京都工芸繊維大学で行われている「近代日本のグラフィックデザイン」展を見に行く。その後Jamesとの待ち合わせ場所である出町柳駅へ向かうと、バッチリ車で待ってくれていた。なにしろ初対面。年齢も風貌も想像と違った。短パンにクレイジーカラーのスニーカー、キャップにヒゲのフランクな英国人。一気に打ち解ける。

大文字山を拝みながら比叡山へ。車で20分ほど行くと、あっというまに川の音、虫と鳥の声に囲まれた、彼の言う<village>に到着する。昔ながらの美しい日本家屋。縁側があり、庭があり、土間があり、カマドがあり、大広間があり、秘密基地のような屋根裏の作業場と子供部屋がある。Calmですねぇ〜…。『渡辺篤史の建もの探訪』を欠かさず見ているので、つい篤史ビジョンで探訪してしまう。

彼はここに、家族4人で住んでいる。十数年ほど前に、勤めていた会社を辞め(世界中を短期で転々とする生活だったそうだ)、結婚と、フリーランスになることを機に、この地へ移り住んだ。それはそれは、大きな決断だったという。それはそうだ。僕もあまり正攻法でやってきてはいない自信があるけれど、彼が取ったリスクに比べればなんてことはない。ただでさえ、彼は外国人だし。

現在彼は、京都のいくつかの企業、店舗、大学などと仕事をしている。市内にスタッフのいる事務所があり、ミーティングは主にそこでしているそうだ。さらに、岐阜県にある大学院で準教授を務めている。デザインに関するコンセプトメイキングや、問題解決法などを、ディスカッション形式で進めているそうだ。その他、展覧会やワークショップ、自主プロジェクト(僕が交換してもらった本もそのひとつ)など。

これだけネット環境が整っていて、情報化されている現在であれば、グラフィックデザインなんてどこでやっても同じだと思うかもしれない。しかし、「ローカリティ」ってのは脈々と息づいている。むしろそこは肝だってことを再確認した。彼は自分の出自を越えて、さらに色々な偶然が重なってたどり着いたこの地で、複雑に絡んだ地域性(ロンドン、東京、京都、滋賀、岐阜…)を活かした仕事をして生活している。どこでやっても同じなわけがない。

僕が現在取り組んでいる「少年タイポ」(幼稚園児から老人まで、古今東西の無名人による手書きの民間文字の研究)も、地域性は重要な項目だ。デザイン研究は、当たり前のように民俗学の領域に及んでいく。たまたまJamesが、娘さんたち(小学生)の落書き帳を持っていたので、見せてもらう。この年代の子供たちの書くものはいくつか見たことがあるけど、彼女たちはハーフだ。学校では日本語だが、家に帰るとJamesは主に英語で話す。なので、落書き帳は見事なチャンポンで描かれている。なるほどとても新鮮。

そんなこんなで、あれこれ生活スタイルのことを聞きながら(彼は地域の御神輿かつぎや、庭掃除には必ず駆り出される。なにしろ小さいvillageだからご老人にモテモテ)、彼の振る舞ってくれた極めて美味のトマトやナスの料理を食す。また会う約束をして、近所を散歩し、京都まで送ってくれた。すっかり長居してしまったが、とにかくすばらしい出会いだった。

その後、仲條正義さんがロゴデザインなどを手がけられている「細見美術館」へ。この美術館は、学生の頃雑誌の『古今』で知り、ずっと行ってみたかった場所だ。そして若沖。客一人もいなかったので、ゆっくりと堪能。

午前中に行った「近代日本のグラフィックデザイン」展は、大正から昭和のポスターを中心に展示。技法はリトグラフ、オフセット、HB製版印刷、木版など。山田伸吉作の松竹座シリーズ、猪熊弦一郎の「スモカ」、上田健一の「カネボウシャツ」など、実物見れて良かった。『紙上のモダニズム』(六耀社)掲載のものもちらほら。

夜は、銀閣寺の方に店舗のある「モアレ」へ。こちらも前日に知り合った方。ここでは、大竹伸朗さん関連の書籍やTACOMA FUJI RECORDSのTシャツや、古今東西のストレンジな紙媒体、音源、DVD、洋服、小物などが所狭しと陳列されている。

店長の岡田さんに、京都周辺の現状や、お店についてなど、突然の訪問にも関わらず懇切丁寧に接客していただく。パリペキンレコーズの虹釜太郎さんの過去の文章をまとめた『Paris Peking Archives』の1号を購入。編集はばるぼらさん。ばるぼらさん、デザインも素晴らしいでふ。ノイズ、現地録音、脱力から音響派まで。当時パリペキンレコーズ店内で配っていたプロモ音源CDつき。

駆け足で駅へ戻り、お土産をかっこみ、駅近のローカル銭湯に浸り、また7時間かけ夜行バスで帰宅す。滞在時間41時間。地方フィールドワーク、とことんゴールドエクスペリエンスでした。

今後も続けたい。

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鴨川にて。フランスから来た旅行者と地元の音楽家衆と初対面酒盛りをする。平日でも路上に活気がある。ああいう抜けの良い場所に、自然に人が集まるのって良いな。節度が守られていて風通しが良かった。季節も良いし。夜中ポチポチ歩いて帰っていたら、見知らぬ若者が宿まで車で送ってくれた。
すごい都だ。


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#219 /// 2010.9.13 /// tag: diary /// 京都でOMOったこと ///////////////////////////////////////